アドラー心理学を教室で──道徳や生徒指導で使える「心の三角柱」の話
「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」。一時アドラー心理学がブームとなり、どこの本屋でも平積みされていました。この2冊は自分の中で読んで良かった本ランキングの上位に君臨しています。
特に心の三角柱(アドラーの三角柱)は授業でも使えるネタなのでおすすめです。忙しい方はそこだけでも読んでみてください↓
アドラーの教え① 今の不幸な状況は、環境や周囲のせいではない
トラウマの否定と言われるこの教え。自分の今の状況は、環境など周囲に原因があるのではなく自分がそうしたいという目的があるからそうしているという考え方です。
例えば「自分がブサイクだから恋人ができない」と嘆く人がいたとします。本心では
- 自由な時間が欲しい(から恋人を作らない)
- フラれるのが怖い(から恋人を作らない)
- モテる努力をするのがかっこ悪い(から恋人を作らない)
などの理由があるのに、モテない原因を自分の容姿のせいにしている、とアドラー心理学では考えます。確かに容姿がイマイチでも、女性ならメイク、男性なら話術やセンスを磨いて恋人を持つことは可能ですし、そうなるために努力している人もたくさんいますね。
この考えによるとどんなトラウマも言い訳にしてはいけないということになるのですが、世の中にはPTSDで本気で悩んでいる人もいます。
たとえば不登校ひとつ取っても、本心では学校に行くのが面倒くさいと思いながら次々と学校に行けない理由を作る生徒もいれば、本当につらいいじめにあって学校に行けなくなった生徒もいます。
アドラーの教えは自分で奮起するためには使えますが、他人に強要するのは難しいことも多いです。この考え方をクラスで取り扱う場合は、ライトなテーマで紹介する程度にとどめておいた方がベターかもしれません。
アドラーの教え② その悩みは、本当はあなたの悩みじゃない
私が一番心が軽くなったのがこの「課題の分離」です。
アドラーは、悩み事のほとんどは対人関係の悩みだと言っています。もしこの世に他人がいなければ、そのことで悩む必要はないのです。他の人よりも優位でありたい、褒められたい、怒られたくない、嫌われたくないなどと思うから悩むのです。そういう感情を無意味なものと思って手放せば、悩み事はなくなってハッピーに過ごせる、というのがアドラーの教えです。
例えば、自分の子どもが勉強しなくて困っている時。責任感の強い親はそのことで悩みます。将来自分の子が進路や就職に困るのではないか、周囲や親戚からダメな親だと思われるのではないか、担任に怒られるのではないか、そんなことを気にしてしまいます。でも、 勉強をしなくて困るのは子どもなのです。親がどうこうしようと思わなくて良いのです。
英語ではYou can lead a horse to the water, but you can't make him drink.(馬を水飲み場に連れていくことはできでも、飲ませることはできない)と言いますね。
課題の分離は、特に真面目な人・責任感の強い人の肩の荷を下ろしてくれる考え方です。他人にどう思われたって良いじゃない。嫌われたって良いじゃない。自分が良いと思うことだけを信じて行動していこう。そういう勇気がもらえる考え方です。
決して責任を放棄しろと言っているわけではないし、本人にもそのつもりはないのですが、普段「おりこうさん」でいないといけないと思う人ほど、時には課題の分離で心を空っぽにするのも良いかもしれません。
アドラーの教え③ 心の三角柱【本題】
さて、いよいよ本題です。「嫌われる勇気」の2作目である「幸せになる勇気」に、アドラーの三角柱が紹介されています。この三角柱は友達の悪口を言ってしまう生徒や批判や非難が多い生徒が現れたときに有効な教材です。(道徳でも、学活でも、行事でも。)
誰の心の中にも三角柱があって、そのうち2面にはこのように書かれています。
- かわいそうな私
- 悪いあの人
私たちは悩んだり愚痴を言う時、この2面しか見えておらず残りの1面を忘れています。残りの1面にはこう書かれています。
- これからどうするか
アドラー心理学を用いたカウンセリングでは、ひとしきり話を聞いたあと「このあとどんな話をしてもいいけど、三角柱のうちどの面の話をしているのか見せながら話すように」と言うと、ほぼすべての人が「これからどうするか」について話すそうです。
YouTubeに動画をあげて下さった方がいたので掲載します。百聞は一見に如かず↓
クラスでは、一人1枚真っ白なA4の紙を配ってこの三角柱を作ってもらいました。周囲の文句や愚痴ばかり言わないようにしようという話。紙とペンだけでできる素晴らしいワークです。授業が終わったあとも1つ教室に飾っておいて、折に触れて思い出してもらいました。
私自身も、弱い自分に負けそうになった時には心の三角柱を意識しながら過ごそうと心がけています。